Topics 2002年3月1日〜10日    前へ    次へ


8日 一粒で二度おいしい
5日 セーフガード発動
4日 Enron確定給付年金もめちゃくちゃ
1日 日本は社会主義?


8日 一粒で二度おいしい Source : Testimony of Chairman Alan Greenspan
こんなタイトルをつけると、世代がばれてしまう。

この2日間、アメリカの連邦、州所得税の申告書の確認、清書、支払という作業をやっていた。別にたいした計算をするわけではないが、納税申告書を書くということを、日本でもやったことないのに、それを英語のマニュアルをにらみながら書くので、とても緊張した。

このマニュアルというのが、実にたくさんある。申告書だけでも、そのfiling statusによって異なるし、所得別に別途添付しなければならないものがあり、それぞれにマニュアルがついてくる。さらに、私のような外国人を対象としたマニュアルもあるので、最初はどれから読み始めれば良いのか、迷ってしまった。

でも助かったのは、さすがアメリカで、あらゆる申告書、マニュアルが、Webでダウンロードできることだ。これでずいぶんと手間が省けた感じだ。

さて、今回、私は、2001年の所得に関する所得税の申告・支払と同時に、2002年分の所得税も申告、支払を行った。この2002年分の所得税のことをEstimated Taxと呼ぶ。サラリーマンであれば、企業がWithholdして、同様に支払う。これは、連邦、州、郡とも同じシステムだ。簡単に言ってしまえば、2002年分の所得を予め予測し、四半期で予定分割納税を行う制度である。従って、通常のアメリカ人にとってみれば、この時期に行う2001年分の所得税の申告・支払は、予定納税した所得税の年末調整という位置付けとなる。

このEstimated Taxの書類を用意しながら思ったのは、昨年、Bush大統領の提案により実現した大減税のことである。減税法案が通過した後、アメリカ国民は財務省からrefundのcheckが送付されてくるのを楽しみにしていた。実は、私はこれが減税の効果なのか、と勘違いしてしまった。日本の所得税減税があると、年末調整で税が還付されておしまいということが多いからだ。

ところが、アメリカの場合、減税の効果は、何回も打ち寄せてくる。今回の大減税の場合であれば、
@最初に財務省からのrefund check。これは、2000年分の所得税減税。
A2001年末から2002年当初。2001年分の納税申告書をまとめれば、おそらくEstimated Taxで払いすぎている分があるだろう。ここで、また還付請求ができる。
Bそして、2002年分のEstimated Taxの支払を開始する段階で、2001年の最初のEstimated Taxよりも減額になっていることが実感できる。
このように、何回も減税されたという意識をアメリカ国民が持つことにより、景気後退局面でも消費が堅調に推移したのかもしれない。そう考えてみると、景気対策として所得税減税と主張した、Bush大統領、共和党の考え方にも頷ける。一粒で二度も三度もおいしいのだから。

残念ながら、こんなことを説明してくれるEconomistはいないので、FRB議長の議会証言をSourceとしてあげておく。Productivityの動向を頭に置きながら各種統計数値を評価するという、彼のスタンスはとても参考になる。

最後に、「溜池通信」最新号で、このサイトが紹介されました。「かんべえ」さん、大変光栄に思います。ありがとうございました。

5日 セーフガード発動 Source : President Announces Temporary Safeguards for Steel Industry
ついにブッシュ大統領が政治決断した。アメリカ鉄鋼産業再建のため、セーフガードを発動することとなった。内容は、「製品別に8〜30%の関税を課する。また、NAFTA加盟国と輸入規模の小さい発展途上国からの輸入には関税をかけない」とのことだ。鉄鋼産業の要望を丸呑みすることはしなかったものの、かなり大規模なセーフガードとなるため、今後この問題は国際貿易の場で議論されることになるだろう。報道によれば、ブッシュ政権内部も相当割れたようだが、最後は、中間選挙、大統領再選に配慮したブッシュ大統領が、足して二で割る決断をしたということだろう。両政党、鉄鋼業界、鉄鋼ユーザー業界とも、評価はわかれている。鉄鋼メーカーは、もっと積極的な対策を取るべきとのスタンスだが、ある程度の評価はしているようだ。

上のSourceとしてあげた、大統領ステートメントで、大統領が政策として提案していることは次の通りである。 @とAは外交問題、Bは予算教書等で既に提案済み、Cも失業者の医療保険料の税額控除として提案済みの内容である。

そして、最も大事なことは、ここでlegacy costに全く触れていない点である。Cは若干近いが、一般論であり、鉄鋼業界のみの援助策ではない。しかも、保険料の税額控除ということになれば、まず自ら医療保険に加入して保険料を納める必要があるため、企業が提供する退職者医療保険とは程遠い。もし、ブッシュ大統領が、「legacy costについては、今後とも政府は引き受けるつもりがない」との決断をしているとすれば、アメリカ鉄鋼業界の再建は相当な困難となろう。

「2月25日 Legacy Cost」で触れたように、US Steelを中心に主要メーカーを大統合しようという案があったが、それはこのlegacy costを政府が引き受けることが前提だ。この前提をブッシュ大統領が拒否したということならば、依然としてアメリカ産鉄鋼製品のコスト構造は改善されず、国際競争力の回復など覚束ない。Legacy costから逃れるためには、組合と決別して退職者医療保険を廃止してしまうしかない。企業年金の方はもっと厄介で、倒産するしか逃れる道はない。

以上のようなことから全体を考えてみると、今回のブッシュ大統領のステートメントは、セーフガードの発動により、鉄鋼産業や労組の意向を一部汲んだように見えるものの、その実は、鉄鋼産業の崩壊を数年伸ばす間に従業員の転職や資産の整理にめどをつけてもらいたい、というメッセージに読めてくる。

4日 Enron確定給付年金もめちゃくちゃ Source : Statement of Steven A. Kandarian (PBGC)
Enronという会社は、自社株で本当に悪いことをしている。

これまで、マスメディアで報じられてきたのは、401(k)プランやESOP(Employee Stock Ownership Plan)という、確定拠出型の企業年金(Defined Contribution Plan)で、自社株が暴落し、従業員達の年金資産が藻屑となったというものだった。これはある意味仕方のない部分がある。自己責任で自社株に投資していた部分もあるのだから、その結果は甘受すべきというDC特有のルールがあるからだ。

しかし、確定給付型(Defined Benefit Plan)となると、その責任は一意に経営者側にかかってくる。上記のソースとしてあげたのは、PBGCの議会証言だ。PBGCとは、確定給付型年金の支払保証公社であり、DB型の企業年金が破綻すると、その加入員であった従業員の年金給付を肩代わり支給するAgencyだ。

このPBGCの議会証言で明らかになったことは、
積立不足となっているDB Planは、現時点ではCash Blance Planという、DBとDCのhybridとなっているが、その前は、DB PlanとESOPの間のFloor Offset Planとなっていた。Floor Offsetというのは、これもDBとDCのhybridの一種で、一定の利回りを想定しておいて、DCで運用した結果がこの想定利回りより低ければ、DB Planで計算した年金を支払いましょうという制度だ。いわば、ちょっと低めだが元利保証付きのDC Planと言えよう。

Enronの従業員は、ESOPでもし失敗した場合、DB PlanとのOffsetが成立していれば、少しは、損害を少なくできたはずなのである。ところが、Enronは、1996〜2000年の5年間、毎年20%ずつ、その時のESOPの時価でDB Planのbenefitをoffsetしてしまった。これにより、2001年以降、ESOPの資産価値が低落しても、floorの部分、つまり元利保証となるDB部分はなしになってしまったのである。ちなみに、各時点でoffsetに使われたESOPの自社株は、加入員に配分された。

PBGCの見解によれば、ある時点におけるESOPの時価でDB部分を相殺してしまうのは、ルール違反である。この5年間で相殺してしまったDB Planの資産分が積みたて不足になっているというわけだ。その積立不足額は、今のところ最低でも1億2500万ドルと推計されている。もしEnronが再起不能となり、PBGCがその年金を引き継ぐことになれば、その分だけでも従業員は救済されることになる。

しかし、その積立不足を補う資金の原資は、その他の企業年金から集めた保険料である。こんな掟破りをしていながら、支払保証制度に救われるというのは、本当に望ましいことなのだろうか。私にはとても耐えられない。

最後に、1日にちょっと触れた最近の中国経済について、この人がコメントされているので、ご参照ください。

1日 日本は社会主義? Source : A novel approach to health insurance (St. Petersburg Times)
アメリカで人気のあるステーキハウス・チェーンに、Outbackという店がある。私が住んでいるBethesdaにもある。子供達が大好きでよく行くのだが、これが本当にアメリカらしい、陽気な店だ。しかも予約はできない。特別扱いはしませんよ、というわけだ。店員も元気で、大きな声でしゃべるし、よく動き回る。

このOutbackを経営している会社が提供している医療保険が、とてもユニークだと紹介されているのだ。何がユニークか。保険料の負担方法である。普通、アメリカ企業が提供する医療保険の保険料負担は定額だ。単身で加入するなら月いくら、夫婦ならいくら、子供まで含めるならいくら、という具合だ。しかし、Outbackの場合は、給料の高い人が多額の保険料を負担する。経営者達は、通常の何倍もの額を負担する。その代わり、店で働く店員や、厨房の従業員は、通常の3割程度の負担で済む。なぜそういうシステムを採用したのか。従業員の医療保険カバー率を高めるために考え出したということだ。

面白いのは、OutbackのCFOが、「それは社会主義ではないか」と突っ込まれてたじろいだ、という場面。Outbackは、多額の献金を共和党にしているそうで、そんなこといわれたら心外だという。もう一つは、アメリカ人の公平感として「たくさん稼いだ人が最もいい医療保険を手に入れる」のが当たり前、と思っているところだ。

経営陣に不快な思いまでさせてこの制度を採用したきっかけは、クリントン前大統領の皆保険構想だったという。もし本当に皆保険を強制されたら、負担が重すぎて企業としてやっていけなくなる。そうなる前に、次善策をとったということらしい。この辺もアメリカ企業らしくておもしろい。政府に規制で押し付けられる前に、対策をとってしまうというところだ。

翻って日本の場合、国民保険(自営業者等)の保険料算定には、所得割、資産割という応能部分がある。また、健保組合の場合は、給与の何%となっている。もちろん上限はあるものの、たくさん稼いでいる人がたくさん負担している制度だ。これを日本人は公平だと思っているのだが、アメリカ人にしてみれば、「社会主義的制度」ということになる。

私も普段から、「日本社会は民主主義でもなく資本主義でもないな」と思うことが多いが、ここまでは考えたことはなかった。やはり、価値基準の違いが大きいのだと実感させられた。

社会主義といえば、最近、Wharton SchoolのWebsiteに「日本よりも中国の方が改革が進んでいる」という記事が掲載された。私は、中国のことはよく知らないし、中国の農村、貧困層の問題や、中国経済の発展が日本企業との協力によるところが大きい、ということは全く触れられていないので、どこまで信憑性があるのかわからない。ただ、「日本の金融市場と労働市場が硬直的だ」、「終身雇用(を採用してきた大企業)は人材墓場となっている」という指摘は、まさにその通りだと思う。だからこそ、私はこのWebsiteを立ち上げたのだから。

もし、「かんべえ」さんがご覧になっていたら、このWharton Schoolの記事の感想を、溜池通信に掲載してくださいませんか。